
英語が好きで、高い英語力を持っている方のなかには、「英語を使ってやりがいのある仕事がしたい」「語学力を生かしたい」「在宅で働きたい」など、さまざまな理由から、翻訳の仕事に興味を持つ人が少なくありません。
その際、多くの人が最初に抱く疑問の1つに、「翻訳の仕事をするうえで、何か資格は必要なのか」があるでしょう。
本記事では、在宅の副業翻訳者である筆者が、英語翻訳の仕事をするうえで資格を取得するメリットを解説。さらに翻訳の仕事に役立つ、有利になる資格を5つ紹介し、資格を選ぶ際の考え方も簡単に解説します。
翻訳者になりたい方や翻訳を勉強中の方はもちろん、選択肢の1つとして翻訳者の仕事を考えている方もぜひチェックしてみてください。
翻訳の仕事をするうえで資格を取得しておくメリット

英語翻訳の仕事をするうえで、資格の取得は必須ではありません。ですが、資格を取得しておくことで以下のようなメリットがあります。
翻訳の仕事をするうえで資格を取得しておくメリット その1: 応募可能な求人が増える
翻訳の求人に応募する際やフリーランスの翻訳者として登録する際に、資格の取得が応募要件とされる場合があります。
なお、翻訳の求人は経験者向けのものが多く、経験不問の求人は少数。資格不問の求人となるとさらに少数です。
資格を取得することで、応募可能な求人が増える点は、まず押さえておきたいメリットといえるでしょう。
翻訳の仕事をするうえで資格を取得しておくメリット その2: アピール材料になる
翻訳の求人に応募する際やフリーランスの翻訳者として登録する際に、応募書類で自分のスキルをアピールすることは大切です。一番のアピール材料は実績ですが、特に新人の翻訳者の場合、アピールできる実績がありません。
ですが、資格を取得していれば、応募書類に書ける数少ないアピール材料の1つとして資格を挙げられます。
自身の翻訳スキルをアピールする材料にできる点も、資格を取得するメリットの一つです。
翻訳の仕事をするうえで資格を取得しておくメリット その3: トライアルで優遇措置が受けられることも
トライアルとは、各翻訳会社が独自に実施する選抜試験のこと。フリーランスで翻訳の仕事をする場合、翻訳会社のトライアルを受けて登録し、案件の紹介を受けるのが一般的です。
その際、特定の資格を取得していれば、トライアルに関して一部の企業で優遇措置を受けられます。具体的には、試験免除や試験の一部免除、受験要件の緩和などです。
この点も、翻訳の仕事をする上で、資格を取得するメリットといえるでしょう。
このように、資格の取得には、翻訳の仕事を獲得するうえでさまざまなメリットがあります。
翻訳の仕事に携わりたい場合は、資格取得のメリットについても、しっかりと確認しておきましょう。
翻訳の仕事におすすめの資格5選

翻訳の仕事におすすめの資格 その1:
JTFほんやく検定 公式サイトへ行く

試験日程 | 年2回 ※1月・7月 |
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受験料(税込) |
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資格の難易度 |
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資格の特徴
JTFほんやく検定は業界団体の1つである一般社団法人日本翻訳連盟(JTF)が主催する資格試験。基礎レベルと実用レベルがあり、基礎レベル(4級、5級)は学習者向け、実用レベル(1級から3級)は実務経験者向けです。ただし、2024年6月現在、基礎レベルの試験はいったん休止しています。
JTFほんやく検定の特徴は、仕事につながる特典があること。
実用レベルの2級以上に合格すれば、「希望者はJTF公式サイトとJTF機関誌にプロフィールを掲載できる」「JTF加盟企業のうち20社程度から、選抜試験の条件緩和などの優遇措置を受けられる」といった特典が受けられます。
試験はオンラインで実施され、実用レベルでは「政経・社会」「科学技術」「金融・証券」「医学・薬学」「情報処理」の5つの出題分野から1つを選択して回答。
また、実用レベルの場合、問題は共通で、翻訳の完成度によって級の合否が判定されます。
難易度・合格率
3級以上は実用レベルで高難度。合格率は3級が20%、2級が5~7%です。
なお、JTFほんやく検定では、商品として通用する訳文を限られた時間内に提出することが求められます。
翻訳の仕事におすすめの資格 その2:
翻訳実務検定TQE 公式サイトへ行く

試験日程 | 年3回 ※2月、6月、10月 |
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受験料(税込) |
9,900円
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資格の難易度 | やや高~高 |
資格の特徴
翻訳実務検定TQEは翻訳スクールのサン・フレア アカデミーが実施する検定試験です。スクールを運営する株式会社サン・フレアは産業技術翻訳などを行う翻訳会社で、50年以上の歴史があります。
TQEの一番の特徴は、3級以上に合格すれば株式会社サン・フレアのトライアルが免除されること。つまり翻訳会社に登録して、仕事の紹介を受けることができます。
また出題分野が多いことも特徴で、選択肢が「IT」「医学・薬学」「法務・契約書」「広報・マーケティング」など19もあります。自分が専門にしたい分野を考えて受験しましょう。
試験はオンラインで受験できます。問題をダウンロードし、期日までに回答をアップロードする方式です。問題は級に関係なく共通で、点数によって級が判定されます。
他の資格試験や実務と比べて時間に余裕があるので、よく調べよく見直しをして翻訳の完成度を高めるのがポイントです。
難易度・合格率
株式会社サン・フレアでは、TQE3級をプロとしてのスタートレベルと位置付けています。ちなみに、その合格率は10%未満です。
翻訳の仕事におすすめの資格 その3:
NIPTA 知的財産翻訳検定試験 公式サイトへ行く

試験日程 | 年2回 ※4月・10月 |
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受験料(税込) |
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資格の難易度 |
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資格の特徴
知的財産翻訳検定試験は、日本知的財産翻訳協会(NIPTA)が主催する資格試験です。
その特徴は、知的財産関連の翻訳に特化した検定であること。取得すれば、この分野の翻訳会社にピンポイントでアピールできます。
試験は毎年、4月と10月の年2回行われますが、4月は和文英訳のみ、10月は英文和訳のみ。一方向だけを受験する人にとっては、実質年1回であることに注意しましょう。
また、試験ではMicrosoft WordとEメールを使用して受験します。
難易度・合格率
試験には3級~1級まで3つの級があり、それぞれで問題が異なります。
3級は入門レベルで、知財英語に関する基礎知識を問う記述問題プラス選択問題。2級は準プロレベル。完全記述式で、一般的な技術内容はもちろん、特許明細書の翻訳力を問う内容も出題されます。1級はプロレベルで、記述試験に加えて面接があります。
なお、2023年秋試験の合格率 は以下のとおりです。
- 3級: 88.9%(18人中16人)
- 2級: 25.0%(24人中6人)
- 1級: 12.5%(56人中7人)
翻訳の仕事におすすめの資格 その4:
翻訳者ネットワークAmeliaの「クラウン会員」 公式サイトへ行く

試験日程 |
分野により年1~3回
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受験料(税込) |
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資格の難易度 | 高 |
資格の特徴
「クラウン会員」は翻訳者ネットワークAmelia(アメリア)における独自の認定制度。Ameliaのウェブサイトを通じて求人に応募する際に有効な資格です。
Ameliaに掲載されている求人は多くが経験者を対象としていますが、クラウン会員資格を持っていれば、未経験でも求人に応募できるメリットがあります。
ただし、「クラウン会員」の仕組みは少々複雑。
まずAmeliaでは「定例トライアル」という試験を実施しています。これはトライアルの模擬試験のようなもので、AAからEの6段階で評価される試験です。この試験でAA判定を取得するか、同一分野で12か月間に2回A判定を取得するとクラウン会員として認定されます。
なお、定例トライアルの受験料は1回1,650円(税込)。受験分野は「ビジネス」「IT・テクニカル」など10分野です。また、定例トライアルの受験の前提としてAmeliaの会員(※入会金5,500円(税込)/年会費16,500円(税込))となっている必要があります。
難易度・合格率
定例トライアルのAA判定取得者はほぼ0%。A判定は分野により5~10%です。そのため、期間内に2回A判定を取得するのも相当難しいことが分かります。
ちなみに公式サイトによると、AAは「すぐに仕事で通用する実力がある」、Aは「チェッカーの監修がつけば、仕事として通用する可能性大」とされています
翻訳の仕事におすすめの資格 その5:
ATA certification(アメリカ翻訳者協会認定) 公式サイトへ行く

試験日程 | オンデマンド |
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受験料 | 525ドル |
資格の難易度 | 高 |
資格の特徴
将来的に海外進出を考えている場合におすすめなのがATA certification(アメリカ翻訳者協会認定)。アメリカ最大の翻訳者、通訳者団体であるATAが主催する資格試験です。
なお、英日翻訳の仕事は、英語圏の方が多いうえ、英語圏では、日本語ネイティブの翻訳者は不足しています。
1回の受験料が525ドルと他の資格試験と比較して高い点には注意が必要ですが、翻訳者として本気でたくさんの仕事を獲得したい場合や、海外企業との取引も考えている場合におすすめの資格です。
ちなみにATA certificationでは、前年度の試験問題で構成された「模擬テスト」も提供しています。資格の取得を考えている場合は、腕試しとして、まず模擬テストを受けてみるのも良いでしょう。
難易度・合格率
経験を積んだ翻訳者が受験して合格率20%と、高難度の資格です。
翻訳の仕事に役立つ資格の選び方

本チャプターでは、どのような点から翻訳関連の資格を選ぶと良いのか、資格を選ぶ際のポイントを紹介します。
選び方のポイント その1: 自身のキャリア段階に合わせて資格を選ぶ
一口に翻訳の資格と言っても、その内容はさまざま。未経験者が就職や最初の受注に役立てるための資格もあれば、経験を積んだ翻訳者が業務拡大のために取得したい資格もあります。
そのため、自身のキャリア段階にあわせて資格を選ぶことが重要です。
選び方のポイント その2: 仕事にしたい分野で資格を選ぶ
翻訳の仕事はもちろん、資格に関しても、分野ごとに分かれています。
まず翻訳には大きく分けて「文芸」「産業」「字幕」の3分野があり、このうち仕事が多いのは「産業」分野の翻訳(産業翻訳)。主に、企業のPR資料、契約書や特許文書、商品説明などを翻訳する仕事です。
また、産業翻訳はさらにIT、法務などの分野に分かれます。
自分が専門にしたい分野を考え、そこから、試験科目が自分の専門分野と一致する資格を選ぶのも方法です。
選び方のポイント その3: 仕事につながる特典で資格を選ぶ
資格の中には、合格者特典がついたものもあります。例えば「業界団体の公式サイトにプロフィールを掲載できる」といったものです。
資格を取得することで得られる特典を考慮して、受験する資格を選ぶのもおすすめです。
翻訳の仕事をするために、資格取得以外でおすすめのこと

翻訳の仕事をするためには、資格の取得以外にも、取り組んでおいた方が良いことがあります。本チャプターでは、翻訳の仕事を始める前に、資格取得以外で取り組んでおくと良いおすすめのことを5つご紹介します。
資格取得以外でおすすめのこと
1. 学習中から翻訳の求人内容を調べる
翻訳の求人内容に書かれている「応募条件」や「求める人物像」を読めば、翻訳者に求められているものが分かり、学習の参考にできます。
2. ボランティア翻訳などで実績をつくる
ボランティアでも翻訳の実績を作っておけば、今後、実績をアピールする際に使えるのはもちろん、翻訳の仕事を理解するうえでも役に立ちます。
3. コンテストに応募する
コンテスト入賞は資格以上のアピール材料にできます。気になるコンテストがあれば、積極的に応募してみましょう。
4. リサーチ力を鍛える
リサーチ力は、実用レベルの試験に合格するために必要なスキル。また、翻訳の仕事を始めてからも役立ちます。
5. 専門分野を知る
リサーチ力と同じく、試験にも実務にも役立ちます。英語翻訳にはどういった専門分野があり、自分はどの専門分野を強みとしていきたいのかも考えておきましょう。
将来、翻訳の仕事に携わりたい場合、資格の取得以外にも、ボランティアやコンテストを通じて早めに翻訳の実践に触れる、リサーチ力や専門分野の知識など実務でも役立つ力を身につけるなど、取り組めることはたくさんあります。
ぜひ、できることからチャレンジしてみてください。
まとめ

本特集では、翻訳の仕事をするうえで資格を取得するメリットを解説し、さらに、おすすめの資格を5つご紹介しました。
一口に翻訳の資格と言っても内容はさまざま。受験する前にそれぞれの特徴を比較し、自分にあったものを選びましょう。また、その際には、自分が目指したい分野を決めることや、翻訳の求人条件をしっかりとリサーチしておくこともおすすめです。
英語翻訳の仕事に興味のある方は、本特集を参考に、自分にあった資格の取得を目指しましょう。